「赤字のニュースメディアがあって、潰そうか迷ってるんだけど再生やってみる?3ヶ月好きにやっていいから黒転 (黒字転換) させて。」
みたいな感じでターンアラウンドを任されたことがある。昨日飲んでいた先輩が、今はそこの社長をやっていて昔話になり、久々に思い出したので書いてみる。
何年も赤字だった事業を再生するのに「3ヶ月」っていうのはまあまあ大変だな、とは思ったが、何事もやってみなければわからないのでとりあえず引き受けた。
時間がないのでメディアの中身に手を入れている暇はない。収益性を高めてコストを下げる施策を淡々とやっていく。
当時のメディアは AdSense べた張りで、RPM (Revenue Per mille、広告枠1,000表示あたりの収益性) は平均20円、良くて30円といったところだった。UUは数百万台後半。歴史あるメディアなのでオーガニック含め新規流入はほぼなく、フリークエンシーは高い。ユーザーのアフィニティカテゴリは TV Lovers などいわゆるマス属性でそこまで高く売れる Cookie ではない。
とりあえず、良さそうな場所に枠 (広告枠のこと) を設置し、Ad Server を立てて4重にした。純広→ Criteo → SSP → AdSense という流れだ。Ad Server はタダなので Google の DFP ( DoubleClick for Publishers ) にした。トラフィックが増えると有料化の電話がかかってくるらしいが、規定の表示回数超えてもとうとう請求はこなかった。AdSenseが結構表示されていたからだろうか。
純広は売っていないのでとりあえず設定として作るだけ。
期待は Criteo さんだった。そこまでよい Cookie とは思えなかったので祈るような気持ちだったが、結果は素晴らしかった。10%〜20%くらいの Cookie が、RPM 90円〜120円 で売れた。
Criteo が買わなかった Cookie は RTB (Real-Time Bidding、競売みたいなもの) にかけた。たしか、Micro Ad・Fluct・Nend、あともう1社くらいだったと思う。当時は Fluct が割と成績よかった気がする。あとからジーニーがよいという話を聞いて検討したが、導入する前に会社を辞めたので使わずじまいだった。
枠の場所ごとに AdSense の成績をベースに目標価格を設定し、目標以上の最高値を付けたSSPへ優先的に販売していく。成績の悪いSSPも、消してしまうとベンチマークがなくなるし、常に数字は動くので Ad Server の設定で10%くらいは残しておく。
最後まで売れ残った Cookie は AdSense に売る。
数字はかけないが、平均のRPMは激増した。「あれだけ広告だらけにすりゃ、それは儲かるさ」などと言われたが、大事なのは枠の数ではなく収益性である。だれに何の広告が表示されているかのマッチング精度が大事。
この時点で黒転は見えてきたが、並行してコスト削減を行った。当時、そのメディアは本社が運営していたが、よりコストの安い子会社に運営を移管。運営チームもスマートにして人件費を最小まで圧縮した。開発体制の移管はちょっと手間だったが、赤字のレガシーシステムを面倒見なくて済むのは嬉しいということで、引き継ぎはスムーズだった。
続いて、仕入れていたコンテンツの収益性を1社1社算出し、仕入先のリストラを行った。コンテンツ閲覧ユーザー属性ごとの閲覧数で仕入れ費用を除し、費用対効果を一覧化。効率の悪い仕入先とは個別交渉し、価格が下がらなければ契約を停止した。
オリジナルコンテンツは外部の制作会社に発注していたが、記事ごとの費用対効果を毎回検証し、結果を出せるライターの選定と、より読まれるコンテンツづくりを目指した継続的な改善をディレクターに管理させた。
結果、3ヶ月後には黒転どころかかなりの利益を出せるようになった。
その後の施策として、当時生まれつつあったネイティブアドを導入したがこれが、ここに掲載されたゲーム系の広告がユーザーに刺さり、収益性はもう1段あがった。レコメンド型はいまいちだったが、フィード型は非常によい成績だった。
やり始めて3〜4ヶ月くらいでグロスの売上は3倍くらいになったが、ネイティブアドの成功で4倍くらいまでいった。その後、DMPでの Cookie 販売や、コンテンツの見直しなどを計画していたが、本社から社長が派遣され、子会社化することになったのでその人に任せて私は会社を辞めた。
どこの会社でもそうだが、売上が大きくなったり収益化すると自由にできるフェーズは終了。あとは大人の世界である。
メディア事業の再生は初めてだったが、広告にも詳しくなったし、数字で結果が見えるのはとても楽しい。
ターンアラウンドは好き勝手やれるので好きだ。